理のスケッチ

捨て鳩

前半は哲学、後半は文学。ラストは言葉を伴わない。

KIRI

現時点においてゲーム内で明かされた精緻な思考の全貌を把握するには至ってないように思われますが、これまでにはない感銘を受けた作品であった為、内容への誤解は承知の上でとりあえず書けるだけ書いてみたいと思います。先ず以て目を引く要素は、恋愛モノの物語には不相応と思われるような哲学的な省察の数々でした。ロストジェネレーション、クオリア、無限の可能性その他と、僕自身教養には乏しい人間なので、畳み掛けるように開示されていく理知的な思弁の数々に当初は嫌悪感を抱くような感情の動きもありました。
そのようにして一見、押し付けがましい啓蒙主義的な様相を帯びた作品かと思われましたが、しかしながら、彼ら登場人物の明晰な知性は語られる物語と決して切り分けられない不可分なものであり、物語を追えば追う程、その道筋と思考のトピックはその隙間を埋め合うように緊密な噛み合い様を見せていきます。世上時折散見されるキャラクターを通じて作者が自分勝手に言いたいことを言うだけの煩わしい作品ではなく、むしろ物語とキャラクターを最大限活かす為の仕掛けとして諸々の言説が語られているのだと予め念頭に置いてゲームを始めてみると、僕のような反知性的な方々がプレイする際も抵抗感が薄れるかと思います。理論の鎧を脱がせてみれば、シンプルで美しい物語の輪郭が明瞭に目前へと浮き出てきます、作者様の怜悧な知性に敬愛の念を覚えました。
最後に、作品への理解が不十分であると感じながらも、レビューを書いてしまうことは些か不本意かつ素晴らしいゲームを提供してくださった作者様への礼節としても、憚られるところがありましたが、やはり内容がそれなりに難しく、二週目をプレイする気が起こらなかったというのが一つ正直な感想でもあります。もっとも周回プレイを前提とするような作品ではありませんし、これは僕の怠惰に依る部分も少なからずあると思うので、大した批点にはなり得ません。このゲームをプレイ出来たことを幸せに思いました、今度こそ理のスケッチを理解出来るであろうという自信を抱くことが出来た折には、改めてこのゲームに向き合ってみるつもりでいます。僕では思考の及ばない部分は数あれど、それだけ心を動かされた良い作品だと思いました。

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No.35875 - 2017-07-02 02:58:35
Mihapon

お気に入りの一冊に出会えたような

まず、スタートした瞬間から文字の洪水がだーっと画面を埋め尽くしていく感じがとても気持ちいいです♪

そして、「何かだらだら長いな…」とか「やたら小難しいな…」とか思いながら進めてしまっても大丈夫でした。
そんなプレイヤーのもどかしさや怠惰な空気すら巻き込むかのように物語は思いがけず進行し、いつの間にか目と手が離せなくなり、切なくも眩しいクライマックスへ、たった一つの美しい結末へと導かれてしまうのでした…。

エンディングを迎えた後は、もう一度遊びたい!今度は愛しい彼らの言葉をじっくりと噛みしめたい!という気持ちで、再び最初のページをめくってしまいました(・∀・)

文章の細やかな叙述は勿論ですが、映像のデザインも絶妙で、音楽のタイミングもばっちりで、全体的にとても丁寧な印象があり、それもすごく嬉しかったです♪

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No.35305 - 2017-05-29 01:29:16
Erdna

誰かと深く関わるということ

ネタバレを含みます。

自分の内側を他人にさらけ出すことは人間誰しも抵抗があるが、他人に自分を理解してほしいと思うのも人間だろう。相手に興味を持ってほしいがためにその相手を理解しようとする、相手の内側に踏み込もうとするその行為は、相手にとって迷惑にあたるのか、あるいは救いとすることができるのか。

この物語において主人公は始め、ヒロインに対してある種の憧れを抱く。あるいはそれは既に恋と呼べるものだったのかもしれないが、彼女と同じ意識を持ちたいと思った。彼女の語る話を理解するのは難しいが、そのために努力するのは苦にならず、その時間を大切にした。
いつしか彼は彼女と同じ目線に立ちたいと思うようになり、彼女の語る言葉に相槌を打つだけではいられなくなった。それは自分を理解してほしいという気持ちのあらわれとも言えるが、彼女と理解することには繋がらなかった。
相手を理解しようとし、理解したつもりになり、実際は何も理解していなかった、などという苦い経験は誰しも経験があるかもしれない。そういった体験をしたときに、その相手と距離を置きたくなるという感情はとてもリアルに感じた。深く内面に踏み込んだぶん、一度離れてしまえば以前と同じようにはいかないものだ。

この作品をプレイした感想ですが、序盤内容が難しいと思いながらプレイしていました。私は題材となっている作品を知らないので、それを饒舌に語り、主人公の疑問の一枚も二枚も上を行くヒロインをさながら哲学マシーンかのようにも感じていました。しかし、そんな彼女にも弱いところがある、むしろ他人よりずっと弱いかもしれないひとりの人間であると気づいてからは、物語に目が引かれるようになりました。
この作品は長文が多く、作者様の言われるように冗長に感じる場面もありました。しかし、中盤にヒロインの内面に触れて以降はシナリオのスピード感が増すことで気にならなくなり、終盤には読み進めるのを止めることができませんでした。
上に書いたような経験は少なからず私にもあるので、最後に主人公とヒロインが良好な関係になることができたのも素直に嬉しかったです。
大きな事件は起きなくても、人と人とが向き合えばそれ以上のストーリーが生まれると思わされた作品。

最後に一つ。
本棚に手が届かない英理ちゃんかわいい。

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No.35250 - 2017-05-26 00:40:45
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